実務ガイド

未払いを防ぐ、
契約と支払いの設計

2026年9月1日 | ナカツギ運営事務局

報酬の未払いは、相手の人柄の問題として語られがちです。しかし実務では、取引の設計そのものが未払いを生んでいることが少なくありません。支払期日が決まっていない。何をもって完了かが曖昧。全額を後払いにしている。こうした設計上の穴が、悪意のない相手との間にもトラブルを生みます。この記事では、性善説に頼らずに未払いを防ぐための、契約と支払いの組み立て方を扱います。

未払いは「起きてから」では遅い

報酬の未払いや支払い遅延を経験した人は、調査によっておよそ3割から7割とされています。内閣官房などのフリーランス実態調査(2020年)では約3割、日本労働組合総連合会やマイナビの2024年調査では、より高い割合が報告されています。

より重い問題は、その後の対応です。同じ内閣官房調査では、トラブルを交渉せずに受け入れた人のうち約4割が、その理由に「受け入れないと今後の取引に支障が出るため」を挙げました。取引を失う恐れが、正当な請求をためらわせているということです。

出典:内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」(2020年)/日本労働組合総連合会「フリーランスとして働く人の意識・実態調査2024」/株式会社マイナビ「フリーランスの意識・就業実態調査2024年版」

この構造がある以上、起きてから交渉するという前提では守れません。起きないように設計するしかありません。

1. 支払いを、一括にしない

最も効果があるのは、支払いを分けることです。全額後払いは、納品後の相手の判断にすべてを委ねる形になります。全額前払いは相手の不安が大きく、受け入れられにくい。

実務では着手金と残金の2回払いが現実的です。割合は業務の性質によりますが、5:5、あるいは3:7といった形が一般的です。

分割払いにする3つの効果

  • 損失の上限が決まる:最悪でも、取りはぐれるのは残金だけ
  • 相手の本気度が分かる:着手金を渋る相手は、残金でも渋る可能性が高い
  • 着手の合図になる:入金をもって作業開始とすれば、仕様が固まらないまま動き出す事故も防げます

切り出し方が9割

着手金を求めること自体より、いつ、どう伝えるかが結果を左右します。契約が固まってから持ち出すと「交渉」になり、相手は身構えます。条件提示の段階で、通常の取引条件として伝えるのが要点です。

文例 お見積りの条件について、あわせてご案内いたします。
制作物の性質上、着手金として金額の50%を先にお支払いいただき、納品・検収後に残額をご精算いただく形をとらせていただいております。
ご不明な点がございましたら、お気軽にお申しつけください。

「とらせていただいております」という定型の表現が効きます。あなた個人の要求ではなく、業務上の標準的な手続きとして提示されるため、相手も断る理由を持ちにくくなります。

避けたい言い方 「前回トラブルがあったので」「念のため」といった理由づけは逆効果です。相手を疑っている印象を与えます。理由は述べず、条件として淡々と示すほうが受け入れられます。

2. 「完了」の定義を、先に決める

支払いが止まる原因の多くは、悪意ではなく認識のずれです。こちらは納品したつもりでも、相手はまだ途中だと考えている。この状態では、請求そのものが宙に浮きます。

防ぐには、契約の段階で検収の基準を書いておくことです。

検収について決めておくこと

  • 何を渡せば納品か:ファイル形式、点数、納品方法まで
  • 確認にかける期間:「納品から7日以内」など具体的に
  • 期間が過ぎたらどうなるか:「異議がなければ検収完了とみなす」
  • 修正対応の範囲:何回まで、どこまでが無償か

とくに「期間が過ぎたら完了とみなす」の一文は重要です。これがないと、相手が確認を後回しにしている間、請求できない状態が続きます。連絡が途絶えたときに、こちらから区切りをつける根拠になります。

修正回数の取り決めも同様です。範囲が定まっていないと、追加の修正が延々と続き、いつまでも「完了」に到達しないという形の未払いが起こります。

3. 支払期日には、法律のルールがある

知っておくと交渉の姿勢が変わる知識です。

2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)では、発注者に対し、役務の提供を受けた日から60日以内の、できる限り短い期間内で支払期日を定めることが義務づけられています。期日を定めなかった場合や、60日を超える期日を定めた場合の扱いについても規定があります。

また、発注者の資本金が1,000万円を超える場合は下請法の対象となり、同様に60日以内のルールが適用されます。

使い方 「支払いは3か月後」と提示されたとき、感情ではなく制度に基づいて見直しを求められます。「法令上、役務提供から60日以内とされておりますので、期日のご確認をお願いできますでしょうか」——このように書ければ、角を立てずに是正できます。

なお、契約時に支払期日を明記していない場合、後から争いになりやすくなります。金額と同じ重さで、期日を書いてください。

4. それでも起きたときの、順序

設計しても、起きるときは起きます。対応は段階を踏むのが原則です。いきなり強い手段に出ると、回収できるものも回収できなくなります。

  1. 期日の翌営業日に、事務的な連絡:「ご入金の確認が取れておりません。行き違いでしたら失礼いたします」程度に留めます。多くはこの段階で解決します
  2. 1週間後、書面で督促:メールで構いませんが、金額・期日・振込先を明記し、記録に残る形にします
  3. 2週間以上、反応がない場合:内容証明郵便を検討します。法的手続きの前段階として、相手の対応が変わることがあります
  4. それでも解決しない場合:少額訴訟(60万円以下)、支払督促、弁護士への相談といった選択肢があります

行政の相談窓口もあります。フリーランス新法に関する相談は、フリーランス・トラブル110番などの窓口で受け付けられています。一人で抱え込む必要はありません。

記録がすべてです どの段階でも、判断材料になるのは記録です。契約内容、納品の事実、督促の履歴。口頭やチャットの流れだけで進めた取引は、この段階で立証に苦労します。

まとめ:性善説に頼らない

ここまでの4点は、いずれも相手を疑うためのものではありません。むしろ逆で、条件が明確なら、良心的な相手ほど動きやすくなります。曖昧なまま進めることが、双方に不安と摩擦を生みます。

今日からできること

  • 見積書のテンプレートに、着手金の条件を最初から入れておく
  • 検収期間と「みなし完了」の一文を、定型文として用意する
  • 支払期日を、金額と同じ欄に必ず書く
  • やりとりを、記録の残る形に統一する

一度テンプレートを整えてしまえば、以降の取引で悩む必要はありません。毎回の交渉を、一度の設計に置き換える——それが、未払いを防ぐいちばん確実な方法です。

設計を、仕組みに任せるという選択肢

ナカツギは、着手前の支払いと検収による受け渡しを、標準の流れとして備えたB2B取引プラットフォームです。見積・請書・適格請求書の発行から検収までを一つの画面で完結でき、報酬は買い手の検収完了をもって確定します。利用料は取引額の8.6%(税抜)、買い手の負担はありません。

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